トスカンパニー代表・西村偵紀さん


――:へー、お若いのにご活躍されて。
西村:そして、大分市でトスカンパニーを立ち上げる事になるんだけど、彼(北村氏)には社名を命名してしてくれた恩もあるんだよね。当時、彼は「オリーブ」っていう雑誌を手掛けてて、私もオリーブにお邪魔して色んな雑誌を見ていたんですよ。その時にたまたま手にとった本が、アメリカのタバコメーカーのパッケージデザインが載った分厚い本でね、「トス」っていう日本には入ってきてないタバコのデザインがあったのよ。バスケットかバレーをしてるシーンのデザインで。そのパッケージの絵と色がものすごくよかったんだよね。
――:ええ。
西村:で、ウチはちょうどイタカジのボール(イタリアのカジュアルブランド)っていうメーカーを扱っていこうとしててね。まあ、すごく東京じゃ流行ってたけど、大分で流行らせようと考えてて。要するにボール(球)だよね?「お客様との間でこのボールを扱う」っていうのをかけた訳よ。だからお客様がとりやすいタマは「トス」ではないかと思って、それをコンセプトにしてスタートしたんですよ。
――:大分で事業されるっていうのはどうしてなんですか?
西村:ウチの奥さんは実家が大分でね。いつかは田舎で生活をしてみたいなぁと思っていたんですよ。
――:でも東京に20年以上いらしたんでしょ?いきなり田舎での生活はイヤではなかったのですか?
西村:いや、元々鹿児島生まれだから(笑)。地方都市が如何こうというより、東京という街自体――、人の住めるところではないと痛感してたからね。土地なんかどんどん値上がっていくじゃない?自然が少なく、自分の子供にも絶対良くないと思ってたから、自然のある都市で永住したかった。だって東京なんて飛行機ですぐだし、今でも月に一度は足を運んで事足りるくらいだから、全く問題はなかったね。
――:こちらに来られる81~82年頃の大分の中心部って、今みたいに路面店も少なくて、経営は大変だったんでしょ?。
西村:かなり苦労したね(笑)。大分県は百貨店の力が強くて、消費は既にそのように流れているというか。同じ九州でも熊本や鹿児島、長崎あたりとは全く違うから、「こういった地方都市もあまり見ないな」とは感じてた。でも逆に考えれば、大分は路面店がないから面白いとも思ったね。「ゼロからやっていけばいいや」と安易には考えていたし。だから初年度は大きな利益は考えず、「米粒だけ食べれればいい」って思ってたかな、生活する上でも。
――:最低ラインで経営すると。
西村:でも、実際はすごく難しかったねーー安易すぎた(笑)。商売で成り立とうなんてとんでもない!って3ヶ月で分かったね。大分で商売を始める2年ぐらい前からリサーチはしていたんだけど、予想とは随分違っていたかな。今のリーガルホテルやトキハ会館もない時代だよ?オバちゃん向けの洋品店があったぐらいで、本当に路面店なんて何もない時代だったからね。
――:ツラいですねー。
西村:へこんでも仕方ないから、私も何か刺激を受けなきゃいけないと思って、熊本あたりを参考に、街造りを見に行ったりしてたわけ。シャワー通り(熊本最大の繁華街通り)なんかをね。
――:オシャレでした?
西村:熊本なんかは路面店がすごいって聞いてたから、何度も足を運んだね。行く度に「こういった街造りをしなきゃ」と思ったよね。とにかくお店を出して、人が集まって回遊性を持たせようと。
――:街全体を考えられて。
西村:経営的には、オープンして3ヶ月目で開き直ったから(笑)。とにかく路面店でやっていくには、回遊性を持たせないと、その通りに、行きたい店が一軒しかなかったらお客さんもツマんないでしょ?だから利益が出ないって事が分かっているのに、同じビルに2店舗出したりしてね。かなり大変だったけど、街全体を面白くしていこうと考えたわけですよ。
――:確かに、少しずつ賑やかになってきましたよね。
西村:だね。賑やかにはなってきたんだけど、オープンした頃、大分っ子に言われた言葉が妙に気になってたんだよね。ウチの商品を見て『こんなん、普通やん』って。
――:私も含めて、当時の大分は超田舎っ子ですから(笑)。
西村:80年代前半ってDCブランドのブームが来てたでしょ?オシャレに関心がある若いコは『大分にはビギがあればいいよ』って言ってるから、これは価値観を変えてあげないといけないと思ったね。『いや~シンプルで普通がいいんですよ~』って接客はしてたけど(笑)。
――:でも、考えてた街造りまで、どのぐらいかかったんですか?
西村:15年はかかったね。
――:!!!ご苦労さまです。
西村:もちろん、今でも満足している訳じゃないけど。こんな事言うとエラそうに聞こえるかもしれないけど、自分は何もない時代から、ココを見てきた人間だから。ちょこちょこと、色んなお店が出ては消え、ほぼイメージ通りになるまで15年。
――:飲食屋(家鴨長屋)さんも出されましたよね。
西村:オシャレして、行くところがなきゃツマらないでしょう?食をベースとして、ワイワイガヤガヤと、誰とでもコミュニケーションが持てるお店を出そうと『家鴨長屋』って名前にしたの。