美容室アルティスト白石壮一さん

美容室バブルといわれた1996年頃は業界全体が大きく変化していた時代でもあった。渋谷で修行を重ねて順調すぎるぐらいの白石さんだったが、ここで大きな転機があったらしい。

白石:渋谷で働きだして6年目の25歳の時、バイク事故で半年ほどお店を休んだことがありまして、今までの修行時代を自分なりに考えてみたんです。
――:例えばどういったことを?
白石:「俺の技術って全然じゃないのかな」とか、「天狗になっていたのかな」とかね。今思えば恥ずかしいのですが、「俺ってスゲエな」と思っていましたから(笑)。技術は決して満足いくものではなかったのですが、雑誌やテレビで「カリスマ美容師」扱いされていましたし、指名で来られるお客様のほとんどが「白石さんにおまかせ」でしたからね。
――:ケガの功名ということですね。
白石:その通りでした。冷静になって本当の自分を取り戻したというかね。そして、次へ繋げていくに為にはどうしたら良いかと考えたあげく、渋谷を離れることを決めたんです。僕の尊敬する美容師が関西で活躍していましたので修行の場を移そうと。それからは新たな勉強の毎日だし、今まで以上に練習しましたよね。
――:そして大分に戻られたのですね。
白石:ええ。この経験を生かして、地元である大分に新しい風を吹き込もうと燃えていました(笑)。

大分市の美容業界は完全に中心部集中型で、今も数多くの美容室が軒を連ねる。「美容室アルティスト」も大分市の中核である中央町に位置しているのだが、飽和感のあるこの土地で出店することに不安はなかったのだろうか。

――:何年も離れていた地元で出店することに、不安はなかったですか?
白石:確かに最初は不安で眠れないこともありましたね。けれどもおかげさまでオープン当初からお客様の反応は上々で、満足のいくお店造りができています。大分は全国でも指折りの高密集率だとされていますが、今のところは順調です。
――:大分市中心部は客足が遠のいた印象を受けるのですが、この点はどう思いますか?
白石:よく、「パークプレイスなどの郊外店に人は流れた」と言われますよね。確かに大分市の中心部を訪れる人の数は減ったと思います。でもこの状態が長く続くとは正直思っていません。郊外の施設人気も一つの流れだと思います。中心部も指をくわえて見ているだけではないですし、回帰の動きがそう遠くないうちにくるのではないかと思います。魅力のある町ですから、スタイルはここから発祥すればと思ってます。そのためには個人の利益ではなく、この町の利益を考える――、僕たちのような若い世代も町おこしに力を注いでいくべきだし、僕の経験も生かせればなと思っています。お客様は間違いなく中心部に戻ってきますよ。
――:わかりました。では、お店についてお聞きします。このお店を訪れる人はやはり女性ですか。
白石: 20代を中心に7割くらいが女性ですが年齢層は幅広いですね。
――:気をつけている点などあれば教えてください。
白石:コミュニケーションを一番大切にしています。シャンプーするにしても、人それぞれの頭質、髪質を見極めて、ちょっと強めに洗ったり弱めに洗ったりする。お客様と会話をしながら、指先で気持ちを感じとる。そして初めて髪を切ることができるのです。僕は何万人という人の髪を触ってきましたが、髪質というのは人それぞれだし、顔の形によって似合う髪型も似合わない髪型もありますから、話し合ってお互いが納得した上でセットに入る。そうすることで不安は取り除けると思うのです。その人に合ったスタイルを提供し、満足した表情をいただければ、これほどうれしいことはありませんからね。